らあのいくらか仁義を切るやうな半シャツの甥の身構へだの、それらがもう一度頭の中に蘇《よみがへ》り、一列になつて通つて行つた。
房一は苦笑した。とにかく珍客にはちがひなかつた。そして、たつた今さつきまで房一は彼等のお見舞ひでわれ知らず興奮し、緊張し、それからあの半シャツの男と言葉の上でなく、眼と眼で、構へと構へでやりとりした、それが突風の去つた後のやうな軽いあつけなさを残してゐた。
が、ふいに一つのことが彼の頭に閃いた。それは盛子の妊娠だつた。それもたつた今さつきはじめて耳にしたことにちがひなかつた。が、この事はすでにずつと前に聞き、彼の心にぐつと深く喰ひこんでゐることのやうに、思ひ出すと同時に何か身体中がさつと目覚めて来るやうな厚ぽつたい感覚で蘇つて来た。
「あれ[#「あれ」に傍点]らしいのよ」
さう云ひながらぽんと軽く下腹をたゝいた盛子の巧みな、しな[#「しな」に傍点]のある手つきが目に浮かんだ。それは、そこだけ切つてとつたやうな鮮かさで残つてゐた。
房一は感動した。あの一言で、何もかも身のまはりが今までとちがつたやうに感じられた。何か一つ微妙なものがこの世のどこかでひよつこりと生れかゝつてゐるのだつた。まだ目には見えないその隠れた、だがすでに在ることだけは確かな存在が、それだけでこんなにまはりの物を変へてしまつたのだ。それはひよつこりとしてゐる、同時に彼にも盛子にもつながりのある不思議な或る物だつた。彼は職業柄アルコール漬になつた月別の胎児はいやといふほど見て知つてゐた。が、今彼の感知してゐるものはそれとは似ても似つかないものだつた。それはむくむくして、今はぢつとしてゐるが、やがて動き出さうとし、やがて手をひろげ、やがて彼の肩だの腕だのにすがりつかうとしてゐる、温い、柔い、――
房一は椅子から立ち上つた。
膿盆だの鋏、脱脂綿の袋などがまだ散らかつたまゝになつてゐるのを片づけはじめた。
ふと気づくと、玄関に人が立つてゐた、半シャツの男だ。瞬間、又来たな、と思つた。
が、それは徳次であつた。
きよろりとした眼でしきりと家の中をのぞきこみながら、しばらくして
「もう帰つたんかね」
「――?」
「小倉組の連中が来たちふぢやないかね。ほんとうかね」
「うん、もうさつき帰つたよ」
「さうか、惜しかつたな」
徳次は足を踏ん張つて立ち、まだそこら中を見まはし
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