燗抹ェ効果のある新手《あらて》として目下大流行である。何しろ、婚約者だというんだから老年の「支配階級」も手が出ない。そこで、婚約しては破り、婚約しては破り――この「性道徳の衰退」から一個のあらたな性道徳が生れようとさえしている。もっとも、これは離婚という父母達の遊戯を、息子やむすめが忠実に真似し出したところから来ているのかも知れないが――「性の欧羅巴《ヨーロッパ》」はどこへ往きつくか。現行諸制度の社会的権威が、そろそろこの辺から崩れかけたのではあるまいか。とにかく英吉利《イギリス》では「結婚を目的としない婚約」が性道徳の破壊行為として八釜《やかま》しく論じられ、一方には、それほどの問題となるまでに、若い男女間に広く実行されている。霧の白いハイド・パアクの隅で、頭の上で高架線の唸《うな》るガアドの暗黒で、何と夥しい「婚約者」の群が痛快に性道徳を衰退させていることだろう! そして、婚約者のすることだから、誰も文句は言えない! 黙って、見ずに、さっさと通り過ぎて行く――。
ところで、ナタリイ・ケニンガムは二つの愛称を所有していた。ナニイとNANだ。で、母親のケニンガム夫人は、その二個の名前
前へ
次へ
全66ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング