ナ「休養」に過すのである。これがわがケニンガム夫人のウィンタア・スポウツだった。
冬の St. Moritz ――白い謝肉祭《カーニヴァル》は要するに仮面の長宴だ。
そこへ、羅馬《ローマ》法王の触れ出したほんとの謝肉祭《カーニヴァル》が廻って来た―― The Ice Carnival !
宵から朝まで、ホテルのスケイト・リンクで紐育《ニューヨーク》渡りのバヴァリイKIDSがサクセフォンを哮《ほゆ》らせ、酒樽型の大太鼓をころがし、それにフィドルが縋《すが》り、金属性の合いの手が加わり――ピアニストは洋襟《カラア》を外して宙へ放る。
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Was it a dream ?
Say, was it a dream ?!
昨夜《ゆうべ》あなたは僕の腕のなかにあった。
僕の腕はまだその感触でしびれてる!
それなのに夢だなんて!
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一曲終る。アンコウルの拍手はしつこい。つづいてまた直ぐに始まる。限《き》りがない。ディッケンス小説中の人物・ハムレット・1929嬢・奴隷酷使者《スレイブ・ドライヴァ》・なぽれおん・REVUE広告のサンドイッチ人形・ルイ十四世・インディアン・ラジャ・めくらの乞食・道化役・あらびや人・支那の大官・蝶々さん――そのなかで、古タオルだけで扮装した南洋の土人が一等に当選する。案山子《かかし》は古い。牛小僧《カウ・ボウイ》も月並だ。大がいの人が、衣裳は倫敦《ロンドン》から取り寄せる。キングスウェイにデニスン製紙会社というのがあって、いろんな色で註文通りの紙衣裳を作ってくれるのだ。が、謝肉祭《カーニヴァル》の扮装舞踏に一ばん大事なのは、着物よりも顔の|つくり《メイキ・アップ》だ。大ていこれだけは、一組トランクの底に用意して旅行に出る。洗顔用タオル、赤いグリイス塗料《ペイント》、黒のライニング・ステック、楽屋用ワセリン一壜、白粉。顔を黒くするにはコルクを焼いてつけるといい。聖《サン》モリッツの薬屋でも、これだけ一箱に揃えて売っている。
仮装にスケイトをつけた人々が、氷の上に二重の輪を作る。内側は女ばかりで、外が男の列だ。女は外を向き、男の円はそれに対して内面して立つ。楽手は、全然テンポの違った二つの楽を奏さなければならない。はじめの音楽で女は左へ廻る。それが済むと、次ので男が右へステップする。そして、終ったところで
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