踊る地平線
長靴の春
谷譲次

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)香橙色《オレンジ》の

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)その窓|硝子《ガラス》には

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「火+房」、203−1]《だんぼう》と
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     1

 反照電熱機のような、香橙色《オレンジ》の真《ま》ん円《まる》な夕陽を、地中海が受け取って飲み込んだ。同時に、いろいろの鳥が一せいに鳴き出して、白楊《はくよう》の林が急に寒くなった。私は、それらの現象を、すこしも自分に関係のないものとして、待合室の窓から眺めていた。その窓|硝子《ガラス》には、若い春の外気が、繊細な花模様を咲かせていた。
 そこは、ふらんすと伊太利《イタリー》の国境駅のヴァンテミイユだった。
 小停車場は、埃塵《ほこり》をかぶって白かった。そして、油灯《ゆとう》のくすぶる紫いろの隅々に、貧しいトランクの山脈と一しょに、この産業の自由流動と、それによる同色化傾向の濃厚な
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