シニョオル・ムッソリニに面会を申込もうとしている――そうでしょう?』
『何らの根拠もない、恐るべき断定だ!』
私は、ルセアニア人に、援助を求める眼をやった。しかし、彼は、彼の|嗅ぎ塩《スメリング・ソルト》といっしょに非常に多忙だった。私は、単独で彼女に対抗しなければならなかった。
『一体誰が、そんなことを言いました。』
『読心術《テレパセイ》です。私は、ノルマンディの漁村で、不思議な力を有する一人のお婆さんから、読心術《テレパセイ》の手解《てほど》きを受けたことがあります。』
『おやおや? あなたの裸体に対する僕の心持だけは、読まれると困る瞬間がある。』
ルセアニア人が、彼の楽しい塩壜の上から、声を持った。
『どうぞ茶化さないで下さい。ですから、私には、大概の人が、その希望も、その個人的難境も、一眼で判断出来るのです。そこで、当面の問題へ帰るとして、第二のあなたは、ムッソリニに会ったら、政治哲学上の議論などを吹っかけることは極度に排斥して、飽くまでも、亜米利加《アメリカ》産の訪問記者手法で往こうとしているでしょう。つまり、専門の智識なんかすこしも持ち合わせていない、無邪気な顔をして、莫迦げ切った質問ばかり発します。そうして、それによって、その返答を素材に、こっちで勝手に、あなたの好む通りの「人間」を拵《こしら》え上げる。それは、この上なく賢明な遣《や》り方です。公衆《パブリック》は、自分達の偶像との、こういう電光石火的面談記《ライトニング・インタヴュウ》に胸を躍らせて愛読すべく、ジャアナリズムの英雄達によって、もう充分に教育され尽していますから、今あなたが、ムッソリニに対して、この方法を採用すれば、或る程度までの効果は期待していいはずです。』
私は、一々自分の意図が、この国際裸体婦人同盟員の口から繰り出されるのに、新奇な驚異を経験しながら、それなら、仮りに私がムッソリニに会うとしたら、私は、果してどんな質問を次ぎつぎにポケットから取り出して、ムッソリニのどこを狙って投げつけべきであろうかと、彼女に訊いてみた。
彼女は、そこから名案を叩き出そうとでもするように、一つの握り拳《こぶし》で、暫らく手の平を打ち続けたのち、やがて、注意深い小鳥のように、首を曲げて、言い出したのだった。
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『1 一日に何時間眠りますか。或いは、何
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