b――何もかも燃え立っているこの大闘牛場。
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とうろす・け・ばん!
あ・またる・おい!
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 雑音を衝《つ》いて破裂する奇声、濁声。
 4・PM。
 じっとしていても汗ばむ太陽の赤光だ。
 満場に横溢する力づよいざわめき。
 切符の番号と見較《みくら》べて席をさがす人々。
 蒼穹に林立する赤と黄の国旗。
 てらららんらんの闘牛楽《パサ・デブレ》。
 誰からともなく唄い出す「海賊歌《コルサリアス》」の合唱。
 男の円套《マント》と原始的な女装の点綴。
 情熱と忘我と、above all, 太陽――SI! 闘牛はいま始まろうとしている。
 下の演技場は一めんの砂だ。
 そこに、深紅の農民服を着た人足たち――と言っても、これはみんな名ある闘牛士の下《した》っ端《ぱ》弟子で、若いのばかりか、なかには白髪頭のお爺さんもいる。野郎、これで一杯《いっぺえ》呑《や》って来い、なんかと時々親方が投げてくれる金銭で衣食している連中――が、開始前、手に手に箒《ほうき》を持って、中央の大円庭に砂を均《なら》している。
 見わたす限りの人の顔の壁に、ところどころ派手な
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