痰ムと》が呆《あき》れ半分に感心し、男《セニョル》の誠実|相解《あいわか》った! と古風に手を打ったりして、あとはすらすら[#「すらすら」に傍点]と事が運び、間もなく神の意思に花が咲くといった経路だ。どうも廻りくどいが未《いま》だにやってる。私もいつか、セルヴァンテスの家を探してあるきまわった晩なんか、くらい横町にあちこち窓を見上げて立っている青年をふたりも三人も見かけたものだった。通行人も巡警もこればかりは知らん顔してとおり過ぎることにしている。それはいいが、なかには、一晩に二、三個の窓を掛け持ちして、自転車を飛ばして走りまわっている、私立大学のPROFみたいに多忙なのもあったりして、自然この「西班牙《スペイン》国青春男女婚約期間」には悲喜こもごも幾多の秘話があるんだが、元来これは闘牛のはなしのはずだから、そこで、無理にも筋を牛のほうへ捻《ね》じ向けよう。
 が、これで判った。つまりドン・モラガスはうち[#「うち」に傍点]のペトラと許婚《いいなずけ》の間で、目下せっせ[#「せっせ」に傍点]と窓通いをやってる最中なんだが、ドン・ホルヘはそんなことは知らない。夜中に窓の下でごそごそ[#「
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