ニ砂と音と色との一大交響楽。
獣類と人の、生死を賭した決闘。
上から太陽が審判している。
その太陽が、このすぺいん国マドリッド市の闘牛場《ア・ラ・プラサ》に充満する大観衆の一隅に、今かくいう私――ジョウジ・タニイ――を発見しているんだが――この真赤な刺激は、とうとう私に、人道的にそして本能的に眼を覆《おお》わせるに充分だった。
が、いくら私が眼をつぶったって、事実と光景はこのとおり活如として私の四囲に進展しつつある。
だから、どうせのことなら私も、このペン先に牛の血をつけて、出来るだけ忠実に写生し、織り交ぜ、「あらぶ・すぺいん」風の盛大な絵壁掛けを一つ作り上げてみたい。
To begin with ―― of all the exoticism, gimme Olde Spain!
で、これから闘牛場へ出かけようとして、いま現実にマドリッドの往来に立っている私――THERE! ここから着手しよう。
西班牙《スペイン》では、私も意気な西班牙人《スパニヤアド》だ。放浪者の特権。小黒帽《ボイナ》をかぶってCAPAを翻《ひるがえ》してるDONホルヘ――私――の上に太陽が焼け、下には赤い敷石が焼けて、私の感覚も、「すぺいん」を吸収して今にも引火しそうだ。
太陽・紺碧――闘牛日!
歌って来る一団の青年。
声が街上の私を包囲する。
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亜弗利加《アフリカ》の陣営で
ある西班牙《スペイン》兵士の唄える――。
南方へレス産の黄|葡萄酒《ぶどうしゅ》、
北方リオハ産の赤葡萄酒。
この赤とこの黄と。
われらが祖国いすぱにあの国旗!
[#ここで字下げ終わり]
――なんかと、国旗の色をぶどう[#「ぶどう」に傍点]酒で識別して悦《よろこ》んでる。が、じつを言うと、西班牙《スペイン》の国旗は、鮮血を流して黄金を取りに行くという世にも正直な、そしてすぺいんらしい物騒な欲望を寓意して、そこで、赤と黄から出来上ってるのだ。しかし、それはそれとして、その赤葡萄酒と黄葡萄酒、鮮血と黄金の無数の旗が、きょう同国首府マドリッドの大通りにやたらにひらひら[#「ひらひら」に傍点]して、こうしてそこのアルカラ大街の雑沓に紛れ込んでるドン・ホルヘ―― Don George ――の耳に、「海賊の唄《コルサリアス》」と題するくだん[#「くだん」に傍点]のモロッコ従軍歌が、いま糖
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