ニ親分がいったのである。『この巴里《パリー》って町にゃあ物凄《ものすげ》えとこがあるってんで、早《はえ》え話が、いぎりす人やめりけん[#「めりけん」に傍点]なんか、汗水流して稼いだ金で遥《はる》ばるそいつを見にやって来るてえくれえのもんだ。だからよジョウジ、だから俺の商売《しょうべえ》てえのは、まあ早く言えば案内者《ガイド》だが、この物欲しそうな面《つら》の外国《げいごく》の金持ちをあつめて、一晩そんなところを引っ張りまわしてやるんだ。お前《めえ》のめえだが、それあすげえところがあるよ。何しろお前《めえ》、巴里だからなあ――もう十何年もやってるんだが、いくら馬鹿金《ばかがね》が儲かっても、そこはよくしたもんで馬鹿金を費《つか》うから、俺って人間はいつまで経っても同じこった。あははははは、ま、明日からお前《めえ》にもそっちのほうへ働いてもらうさ。』
さて、これですっかり解ったろうと思うが、つまり親分アンリ・アラキは、「脱走船員」の私を助手に十余人の「生ける幽霊」を引具《ひきぐ》し、今から朝まで順々にその物凄《ものすげ》えところを廻ってあるこうというのだ。妙な稼業もあったものだが、これも
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