ムない独逸製児島高徳の胸中と、私たちのような無責任な旅行者のものずきとを語っている。
刑事のように私たちも長いこと家の周囲に張り込んだ。樹《こ》がくれの池にさざ[#「さざ」に傍点]波が立って、二階に見える真鍮《しんちゅう》のベッドの端が夕陽にきらめくまで――。
気早に歩く灰いろの背広、草を打つステッキ――それは私の幻想だった。
ドュウルンに夜がきて、夜が明けた。
運命はついに私達のうえにほほえまなかった。が、私は会わなかったことを感謝している。前帝王が路傍に私という無礼者の奇襲を受けていらいら[#「いらいら」に傍点]する場面――老いたるウィルヘルムはいま心しずかに薔薇をつくっている。君! これでもうたくさんじゃあありませんか。
あくる日はまた白日に物音ひとつない青天だった。
ユウトラクト街道に馬糞の粉末が巻き上り、そのなかをのそり[#「のそり」に傍点]と猫が横ぎり、もう一匹よこぎり、二階ではきのうの女が編物をつづけ、それへ向日葵《ひまわり》が秋波を送り、退屈し切った麦の穂が――ユウトラクトの停車場で、ハンブルグ行きの汽車を待つあいだ、私たちはかの親切なるアムステルダムの紳士
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