オている周囲の人々をかなしいと思った。
休憩時にクルアシビイリという元|露西亜《ロシア》軍隊の将校で、日露戦争に旅順で奮戦して負傷した老人に会った。かれの勇名は乃木大将の耳にもはいって、敵ながらも天晴《あっぱれ》とあって将軍から感状をはじめ色々の物を贈られたのを、彼はいまだに大切に保存しているという。あまりいい生活もしていないようで、片腕が肩からない身体《からだ》に、すべての勲章や金モウルの飾りを剥《は》ぎ取った色の褪《あ》せた黒の軍服を着ていた、が、どこかに三軍を叱咤《しった》した面影が残って、その棒のような身長のうえから何ごとをも諦め切ったほほえみがおだやかにあふれている。このクルアシビイリと話しながら、私はそこらの隅から冷たい赤派の眼が窺《うかが》っているような気がしてならなかった。
つぎの日、並木のまばらな田舎路をドライヴして馬家溝《ばかこう》に横川《よこかわ》、沖《おき》ほか四烈士の墓を見た。荒原の真ん中に高い記念碑が建っている。屍体を発掘したのは碑へ向って右横、すこし背後《うしろ》へまわった小高い地点で、日本から横川氏の弟が来たとき、ハルビンにいた日本人医師が多分このへ
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