すみません。
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と起って戸口《ドア》へ行き、黄瑞露に手伝って藁蒲団と毛布を室内に持ち込む。遠くから「コレア・ウラア!」の叫び声が近づいて来る。同時に隣室にもその合唱と足踏みがはじまる。黄瑞露と柳麗玉は一隅の薪の積んである前に寝床を設えている。
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黄瑞露 (隣室の騒ぎに眉をひそめて)何でしょうねえ、夜中だというのに――。(柳麗玉へ)今夜は此室《ここ》で我慢して下さいね。
柳麗玉 どこだって構いませんわ。
黄瑞露 (笑う)そんなどころじゃないんでしょう? 久しぶりですものね。
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二人は床を敷き終る。安重根は疲れた態でぼんやり椅子に掛けている。
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柳麗玉 (嬉し気に)嫌な小母さん! ちょっとお話しにならない?
黄瑞露 もう晩いからね。(出ようとして安重根を見る)まあ、安さんの顔いろったらないよ。病気が悪いんじゃないだろうかねえ。
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柳麗玉は心配そうに安重根を凝視める。「安重根ウラア!」の声が隣室に起る。

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