い間。轟音を立てて汽車がプラットフォウムに突入して来る。耳を聾する響き。窓硝子を撫でて沸く白い蒸気。プラットフォウムとすれずれに眼まぐるしく流れ去る巨大な車輪とピストンの動きが、窓の上方、人垣の脚を縫って一線に見える。幾輛か通り過ぎて速力は漸次に緩まり、音が次第に低くなって、停車する。正面、改札口向うに、飴色に塗った貴賓車が雪と湯気に濡れて静止している。号令の声が聞こえて、露支両国の儀仗兵が一斉に捧げ銃する。
同じに喨々たる奏楽の音が起って、しいんとなる。安重根は魅されたように起ち上る。右手をポケットに、微笑している。そのまま前へよろめく。だんだん急ぎ足に、改札口からプラットフォウムへ吸い込まれるようにはいって行く。
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底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
1970(昭和45)年1月15日初版発行
初出:「中央公論」中央公論社
1931(昭和6)年4月
※林不忘名義の底本に収録されていますが、発表時の署名は谷譲次です。
※改行行頭の人名、及び「時。」「所。」「人。」は、底本では、
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