「コレア・ウラア! コレア・ウラア!」と二三人の叫び声が近づいて来る。一同は瞬間しんとして聞耳を立てる。
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青年E 安重根だ!
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とドアへ走る。青年四五人が「安重根だ。安重根が来た!」と叫びながら続いて、青年Fを先頭に戸外へ駈け出る。
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声 コレア・ウラア! コレア・ウラア!
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家の前へ来かかる。室内でも皆足踏みに合わして、「コレア・ウラア」の合唱になる。同志一、二をはじめ多勢窓へ駈け寄って硝子戸を開ける。
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同志一 安君! 安重根君!
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いま出て行った青年Fらとともに禹徳淳と白基竜が下手の窓外を通り、すぐにドアからはいって来る。
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同志二 (失望して)何だ、安重根じゃないのか。
禹徳淳 (昂然と)コレア・ウラア! やあ、みんな揃ってるな。
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一同はがやがやはいって来て元の位置に戻る。白基竜は悄然と隅の腰掛けにつき、卓子に俯伏す。
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同志一 (禹徳淳へ)いったい安重根さんはどうしたんです。どこにいるんです。
禹徳淳 (ストウブへ進んで)もうストウブが出ているのか。こりゃあ気がきいてる。まったく、夜そとを歩いていると、海から吹いて来る風で頬っぺたが切れそうだからなあ。(気がついて)だが、火のないストウブじゃあしようがない。
黄成鎬 徳淳さん、安さんはまだ見《め》っかりませんかね。皆さんこうしてお待ちかねだが――。
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上手、別室のドアがあいて、「ちょいと。」と黄成鎬を呼ぶ妻黄瑞露の声がする。
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ドアの前の青年 (振り返って)おやじさんかい。(黄成鎬へ)おい、おかみさんが呼んでるぞ。
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黄成鎬は起って別室へ入り、間もなく、何事か聞き取って承知したる顔で、そっと帰って来て、もとの卓子に腰かけている。
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禹徳淳 (今の黄
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