安重根
――十四の場面――
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)安重根《あんじゅうこん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)白|洋傘《こうもり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「金+今」、第3水準1−93−5]
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[#改行天付き、折り返して1字下げ]
時。一九〇九年八月、十月。

所。小王嶺、ウラジオストック、ボグラニチナヤ、蔡家溝、ハルビン。

人。安重根《あんじゅうこん》、禹徳淳《うとくじゅん》、曹道先《そうどうせん》、劉東夏《りゅうとうか》、劉任瞻《りゅうにんせん》、柳麗玉《りゅうれいぎょく》、李剛《りごう》、李春華《りしゅんか》、朴鳳錫《ぼくほうしゃく》、白基竜《はっきりゅう》、鄭吉炳《ていきつへい》、卓連俊《たくれんしゅん》、張首明《ちょうしゅめい》、お光、金学甫《きんがくほ》、黄成鎬《こうせいこう》、黄瑞露《こうずいろ》、金成白《きんせいはく》、クラシノフ、伊藤公、満鉄総裁中村是公以下その随員、ニイナ・ラファロヴナ、日本人のスパイ、売薬行商人、古着屋の老婆、ロシア人の売春婦、各地の同士多勢、青年独立党員。

 蔡家溝駅長オグネフ、同駅駐在中隊長オルダコフ大尉、同隊付セミン軍曹、チチハル・ホテル主人ヤアフネンコ、露国蔵相ココフツォフ、随行員、東清鉄道関係者、露支顕官、各国新聞記者団、写真班、ボウイ、日本人警部、日露支出迎人、露支両国儀仗兵、軍楽隊、露国憲兵、駅員。

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(朝鮮人たちはルバシカ、背広、詰襟、朝鮮服、蒙古服等、長髪もあり、ぐりぐり坊主もあり、帽子なども雑然と、思い思いの不潔な服装。日清露三国の勢力下にある明治四十二年の露領から北満へかけての場面だから、風物空気、万事初期の殖民地らしく、猥雑混沌をきわめている。多分に開化風を加味しても面白いと思う)
[#ここで字下げ終わり]

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一九〇九年――明治四十二年――八月下旬の暑い日。
ウラジオストックの田舎、小王嶺の朝鮮人部落。

部落の街路。乾割れのした土塀。土で固めた低い屋根。陽がかんかん照って、樹の影が濃い。蝉の声がしている。牛や鶏の鳴く声もする。蝉はこの場をつ
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