より其の戀塚とやらに立寄りて、暫し※[#「※」は「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11、71−8]向《ゑかう》の杖を停《とど》めん』。
 網代《あじろ》の笠に夕日《ゆふひ》を負《お》うて立ち去る瀧口入道が後姿《うしろすがた》、頭陀《づだ》の袋に麻衣《あさごろも》、鐵鉢を掌《たなごゝろ》に捧《さゝ》げて、八つ目のわらんづ踏みにじる、形は枯木《こぼく》の如くなれども、息《いき》ある間は血もあり涙もあり。

   第二十三

 深草の里に老婆が物語、聞けば他事《ひとごと》ならず、いつしか身に振りかゝる哀の露、泡沫夢幻《はうまつむげん》と悟りても、今更ら驚かれぬる世の起伏《おきふし》かな。樣を變へしとはそも何を觀じての發心《ほつしん》ぞや、憂ひに死せしとはそも誰れにかけたる恨みぞ。あゝ横笛、吾れ人共に誠の道に入りし上は、影よりも淡《あは》き昔の事は問ひもせじ語りもせじ、閼伽《あか》の水汲《みづく》み絶えて流れに宿す影留らず、觀經の音|已《や》みて梢にとまる響なし。いづれ業繋《ごふけ》の身の、心と違ふ事のみぞ多かる世に、夢中《むちゆう》に夢を喞《かこ》ちて我れ何にかせん。
 瀧口入道、横笛が
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