》と有り難けれ。夢にも斯くと知りなば不肖時頼、直ちに後世《ごせ》の御供《おんとも》仕《つかまつ》るべう候ひしに、性頑冥にして悟り得ず、望みなき世に長生《ながら》へて斯かる無念をまのあたり見る事のかへすがへすも口惜しう候ふぞや、時頼進んでは君が鴻恩の萬一に答ふる能はず、退いては亡國の餘類となれる身の、今更|君《きみ》に合はす面目も候はず。あはれ匹夫の身は物の數ならず、願ふは尊靈の冥護を以て、世を昔に引き返し、御一門を再び都に納《い》れさせ給へ』。
 急《せ》きくる涙に咽《むせ》びながら、掻き口説《くど》く言《こと》の葉《は》も定かならず、亂れし心を押し鎭めつ、眼を閉ぢ首《かうべ》を俯して石階の上に打伏《うちふ》せば、あやにくや、沒落の今の哀れに引き比《くら》べて、盛りなりし昔の事、雲の如く胸に湧き、祈念の珠數にはふり落つる懷舊の涙のみ滋《しげ》し。あゝとばかり我れ知らず身を振はして立上《たちあが》り、踉《よろ》めく體を踏みしむる右手の支柱、曉の露まだ冷やかなる内府の御墳《みはか》、哀れ榮華十年の遺物《かたみ》なりけり。

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