しましたが、都合の好い時に自儘《じまま》に運んだので、私には、そう骨の折れたことではありませんでした。けれども、妙なもので、一時に纏まったものを出して強いても私を家持ちにさせて下すった平尾氏の御親切がなければ、私はその後幾年経っても借家|住居《ずまい》でいたかも知れません。家持ちになってから今日まで三十年にもなりますか。その間《あいだ》私の家は段々古くなって建て直しをする必要も感じましたが、さらに新築をする自力もないことではあるけれども、それよりもなるべく、三十年前の家持ちになった当時の家の儘《まま》を存して置きたいと思い、破損のひどい所だけは余儀なく修繕をして出来得る限り昔日の俤《おもかげ》を残して置いてあります。
只今こうしてお話をしているこの九畳の座敷も、その時そのままで、初めて、石川光明氏と打ちつれ盆栽会を見物に来た時も、この部屋《へや》や縁側に盆栽が沢山並んでいました。
今日から思えば三十年はかなり古く、また私としても、それ以来いろいろな境涯を経来《へきた》ったことであります。
底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
1929(昭和4)年1月刊
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko saito
2007年4月30日作成
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