おった)。
「今度は、どうもお目出たかった。ともども名誉のことであった。ついては宮内省より百円お下げになったから、此金《これ》を君へ持参した。まあ、赤飯でもたいて祝って下さい」
という言葉。
 いつもながら、若井さんの仕打ちには私も一方《ひとかた》ならず感激していますから、
「それは、毎々御志有難うございます。しかし、私は、前既に充分頂いております。此金《これ》はお返しします。もしお祝い下さるお心があったら、私はそういう事は不得手で分りません。あなたが此金《これ》で宣《よろ》しいようになすって下さい」といって押し戻しますと、
「そうですか。宜しい。では、そうしましょう」といって帰られた。

 五、六日|経《た》つと、京橋|采女町《うねめちょう》の松尾儀助氏から、幾日何時、拙宅にて夕餐《ゆうさん》を差し上げたく御枉駕《ごおうが》云々という立派な招待状が参りました。
 当日、私は出て見ると、松尾邸では大層な饗宴《きょうえん》が開かれていました。主人役は松尾氏と若井氏、お客は協会の会頭および幹部はもとより、審査員の人々が皆来ている。
 今夕《こんせき》は、高村光雲氏作が無上の光栄を得られるについての祝宴であると松尾氏|起《た》って一場の趣意|挨拶《あいさつ》を述べられ、私が会頭の次の正客で、盛大な宴会が開かれることであった。
 吉原から選り抜きの芸妓が大勢来ていました。余興に松尾氏と若井氏とが得意の一中《いっちゅう》を語ったりして陽気なことでありました。



底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
   1995(平成7)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
   1929(昭和4)年1月刊
入力:網迫、土屋隆
校正:noriko saito
2007年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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