幕末維新懐古談
矮鶏の作が計らず展覧会に出品されたいきさつ
高村光雲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)間際《まぎわ》
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 それから、三月一杯掛かって、四月早々仕上げを終る……その前後にまた一つお話しをして置くことが出て来る……

 美術協会の展覧会は、毎年四月に開かれることになっている。ちょうど私の製作を終ろうという間際《まぎわ》にそれが打《ぶ》っ附かったのです。
 協会の方では開会の準備のためにそれぞれ技術家たちへ出品の勧誘などをしていた時であった。
 或る日、役員たちの集まった時に、幹部の方の一人が私に向い「高村さん、今年は君は何をお出しになります」と尋ねましたので、私は、今年は生憎《あいにく》何も出すことが出来ませんと答えました。
 すると、その人は意外なような顔をして、私を視《み》て、
「何も出せないとはどうしたことです。怠《なま》けてはいけないね、君のような若い会員が出品しないなんて困りますね。是非何か出すようにして下さい」というのであった。
 その人の言葉は何んでもないのであったでしょうが、ふと、今いった言葉の中に、「怠けてはいけない」
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