された上に、こんなことを掛け合うのですから、さらに嫌な顔をしている。
「そんな悠長《ゆうちょう》なことはいっていられない。私たちはこれから焼こうというのだ。飛んだものが飛び込んで仕事の邪魔をして困るじゃないか。おい。そろそろ仕事に掛かろうじゃないか」
「まあ、そういわずに、この撰り出した分だけは手をつけずに置いて下さい。お願いですから」
など、押し問答している所へ、天の祐《たす》けか、師匠の姿が見えました。
「師匠が来た。まあ、よかった」
と思うと、私は急に安心しました。
「幸吉か、お前よくやって来てくれた。俺も心配だから飛んで来たんだ。家《うち》で様子を聞くと直ぐに……」
師匠は私にそういってから、下金屋と挨拶《あいさつ》をしている。かねてから、下金屋は師匠を能《よ》く知っているので大変丁寧になる。
「先刻《さっき》からお弟子さんがやって来て、大分撰り出しましたよ」
などいっている。
私は師匠に、名作の分だけ五、六体は撰り出したことを話すと師匠が、
「幸吉、もう好《い》いにしようよ。そんなに買い込んだって売れやしないぜ。お前の撰り出した名作五体だけにして置こう。後《あと》は残念な
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