は略します。
それから、また、本体に附属した後光がある。船《ふな》後光の正式は飛天光という。天人と迦陵頻伽《かりょうびんが》、雲を以《もっ》て後光の形をなす。その他|雲輪光《うんりんこう》、輪後光、籤《ひご》の光明(これは来迎仏《らいごうぶつ》などに附けるもの)等で各々|真行草《しんぎょうそう》があります。余は略す。
台坐には、十一坐、九重《ここのえ》坐、七重《ななえ》坐、蓮坐、荷葉《かよう》坐、多羅葉《たらよう》坐、岩《いわ》坐、雲坐、須弥《しゅみ》坐、獅子吼《ししく》坐、円坐、雷盤《らいばん》坐等で、壇には護摩壇、須弥壇、円壇等がある。
天蓋《てんがい》には、瓔珞《ようらく》、羅網《らもう》、花鬘《けまん》、幢旛《どうばん》、仏殿旛等。
厨子《ずし》は、木瓜《ぼけ》厨子、正念《しょうねん》厨子、丸厨子(これは聖天様を入れる)、角厨子、春日《かすが》厨子、鳳輦《ほうれん》形、宮殿《くうでん》形等。
その他、なお、舎利塔、位牌、如意、持蓮《じれん》、柄香炉《えこうろ》、常花《とこはな》、鈴《れい》、五鈷《ごこ》、三鈷、独鈷《とっこ》、金剛盤《こんごうばん》、輪棒、羯麿《かつま》、馨架《けいか》、雲板《うんばん》、魚板《ぎょばん》、木魚《もくぎょ》など、余は略します。
前陳の各種を製作するにつき、これに附属する飾り金物《かなもの》、塗り、金箔《きんぱく》、消粉《けしこな》、彩色《さいしき》等の善悪《よしあし》を見分ける鑑識も必要であります。
まず「飾り」であるが、飾りには、金|鍍金《めっき》と「消し差し」の二つ。箔を焼きつけたものが鍍金で、消粉を焼きつけるのが「消し差し」です。
金物の彫りの方では、唐草《からくさ》の地彫《じぼ》り、唐草彫り、蔓《つる》彫り、コックイ(極印《ごくいん》)蔓などで地はいずれも七子《ななこ》です。
塗り色にも種々ある。第一が黒の蝋色《ろういろ》である。それから、朱、青漆《あおうるし》、朱うるみ[#「うるみ」に傍点]、ベニガラうるみ[#「うるみ」に傍点]、金|白檀《びゃくだん》塗り、梨子地《なしじ》塗りなど。梨子地には、焼金《やききん》、小判《こばん》、銀、錫《すず》、鉛(この類は梨子地の材料で金と銀とはちょっと見て分り兼ねる)。
塗りにも、塗り方は、堅地《かたじ》と泥地《どろじ》とあって、堅地は砥粉地《とぎこじ》と桐粉地《きりこじ》とあり、いずれも研《と》いで下地《したじ》を仕上げるもの。上塗《うわぬ》りは何度も塗って研磨して仕上げるものです。泥地は胡粉《ごふん》と膠《にかわ》で下地を仕上げ、漆で塗ったまま仕上げ、研がないのです。泥地でも上物《じょうもの》は中塗りをします。
箔にも種類があって、一つの製品を金にするにも金箔を使うのと、同じ金であっても、金粉を蒔《ま》いて金にするのと二色《ふたいろ》ある。
箔についても、濃色《こいろ》があり、色吉《いろよし》がある。中色《なかいろ》、青箔、常色《つねいろ》等がある。その濃色は金の位でいうとヤキ金《きん》に当る。色吉が小判で、十八金位に当る。それから段々十二金、九金というように銀の割が余計になって来る。
箔の大きさは普通三寸三分、三寸七分、四寸である。厚さにも二枚|掛《が》け、三枚掛けと色々ある。これは私が仏師になった時代のことだが、今日《こんにち》ではいろいろの大きさの箔が出来ていて調法になっています。
彩色にも、いろいろあります。極彩色、生け彩色、俗にいう桐油《とうゆ》彩色など。その彩色に属するもので、細金《ほそがね》というのがある。これは細金で模様を置くのである。描《か》くとはいえない。それから金泥で細金の如く模様を描くのがあります。
極彩色はやっぱり絵画と同じ行き方で、胡粉で白地に模様を置き上げ、金にする所は金にして彩色にかかる。生け彩色は一旦《いったん》塗って金箔を置いて、見られるようになった時、牡丹《ぼたん》なら牡丹の色をさす[#「さす」に傍点]。葉は葉で彩《いろど》り、金を生かして、彩色をよいほどに配して行く。これはなかなか好い工夫のものです。
桐油彩色は、雨にぬれても脱落《はげ》ないように、密陀油《みつだゆ》に色を割って、赤、青と胡粉を割ってやるのです。余り冴《さ》えないものだが、外廻りの雨の掛かる所、殿堂なら外廓に用いられる。
底本:「幕末維新懐古談」岩波文庫、岩波書店
1995(平成7)年1月17日第1刷発行
1997(平成9)年5月15日第6刷発行
底本の親本:「光雲懐古談」万里閣書房
1929(昭和4)年1月刊
入力:山田芳美
校正:土屋隆
2006年1月15日作成
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