すると、落葉松の間から、コメツガや、白ビソの蔭から、ひょろ長い丈の石楠花が、星のようにちらつく。それも、横に曲りくねった、普通平地で見るような石楠花でなく、白花石楠花である。高さは一丈以上に達したのも珍しくない。つばきの葉を見るような、厚い革質のくすんだ光沢《つや》があって、先端の丸い、細長い楕円形の葉を群がらしている。その裏返しになったところは、白蝋《はくろう》を塗ったようで、赤児の頬の柔か味がある。美しいのはその花弁だ。白花という名を冠《かむ》らせるくらいだから白くはあるが、花冠の脊には、岩魚《いわな》の皮膚のような、薄紅《うすべに》の曇りが潮《さ》し、花柱を取り巻いた五裂した花冠が、十個の雄蕊《ゆうずい》を抱き合うようにして漏斗《じょうご》の鉢のように開いている。しかもその花は、一つのこずえの尖端に、十数個から二十ぐらい、鈴生《すずな》りに群《むらが》って、波頭のせり上るように、噴水のたぎるように、おどっているところは、一個|大湊合《だいそうごう》の自然の花束とも見られよう、その花盛りの中に、どうかすると、北向きに固く結んだつぼみが見える。つぼみと、それを包む薹《とう》とは、赤と
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