た空の下で、互いにその何百万年来の、荒《すさ》んだ顔を見合せた、今朝になって始めて見た顔だ、或るものは牛乳の皮のように、凝《こお》った雪を被《かず》いている、或るものは細長い雪の紐《ひも》で、腹の中を結えている、そうして尖鋭の岩を歯のように黒く露わして、ニッとうす気味悪く笑っている。
 目的《めあて》は間の岳にある、残んの雪は、足許の岩壁に白い斑《ぶち》を入れている、偃松はその間に寸青を点じている、東天の富士山を始めて分明に見ながら、岩や松を踏み越えて、下りると、誰が寝泊したのか、野営地の跡が、二カ所あった、石を畳み上げて、竈《かまど》が拵えてあるので、それと知れたのだ、偃松の薪《たきぎ》が、半分焦げて、二、三本転がっている。
 尾根を伝わって、東に富士山、西に木曾の御嶽を見ながら行くと、また野営地があった、そこはちょっとした草原になっていた、雪解の水で湿《しめ》っているところへ、信濃金梅《しなのきんばい》の、黄色な花の大輪が、春の野に見る蒲公英《たんぽぽ》のように咲いている、アルプスの高山植物を、代表しているところから、アルプスの旅客が、必ず土産に持ちかえるものにしてあるエーデルワイス(深山薄雪草《みやまうすゆきそう》)は銀白の柔毛《にこげ》を簇《むら》がらせて、同族の高根薄雪草《たかねうすゆきそう》や、または赤紫色の濃い芹葉塩釜《せりばしおがま》、四葉塩釜《よつばしおがま》などと交って、乾燥した礫《こいし》だらけの窪地《くぼち》に美しい色彩を流している。
 振り返れば、間の岳(赤石山脈)や、悪沢岳の間から、赤石山が見える、そうして千枚沢の一支脈は、兀々《ごつごつ》した石の翼をひろげて、自分たちの一行を、遥かに包もうとしている。
 東へ方向を取って、また北へと折れる、右にも左にも、雪田がある、ここから近く見た間の岳は、破れた石を以て、肉としている、おそらくその石を悉《ことごと》く除けば、間の岳は零《ゼロ》になるであろう、その石だ、老人の皺のように山の膚に筋を漲《みなぎ》らせているのも、古衣の襞《ひだ》のように、スレスレに切れたり、ボロボロに崩れたりしているのも、この石だ、それを針線《はりがね》のように、偃松が幾箇処も縫っている。
 急峻な登りを行く、雲は赤石山を包み隠して、西南にその連嶺の西河内岳の一角を現わした、さすがに富士山のみは、深くまつわる山を踏み踰《こ》
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