来たと知つた、竜角峯とか、何々石とかいふ岩石が、水ですり磨され、覇王樹《シヤボテン》のやうに突ツ張つて簇《むら》がつてゐる、どの石もみんな深成岩《しんせいがん》と言はれてゐる花崗岩《くわかうがん》で、地殻の最下層の、岩骨が尖り出て、地下の神経を剥き出しにしてゐるのである、岸と岸との間は、おそらく十五|米突《メートル》ぐらゐな距離しかあるまいが、この並行線は、いつまでも一致しないで、喰ひ合はうとしては離れ、離れては又曲りくねつて、その間を玉虫のような、翡翠《ひすい》のやうな、青葡萄のやうな水が、すうい、すういと流れ、表をかへすと、雪のやうな白い裏地が見える、崖の骨に喰ひついて、萱草《かんぞう》の花が火を燈したやうに、黄色く咲いてゐる、船はもうハムモツクのやうに、空と水の境を揺られる。
 崖の出口の、寺が淵へ来ると、騒ぎくたびれた水は、しんとして、静まりかへる、それもしばしで、オハチへ来たころは、渦まく水が強い呼吸で、吹き分けられたやうに、落ち込みが出来て、浪の中に二三尺の穴が明く、船はその中へ吸ひ込まれさうになつて、大岩の曲り角へと突つかけて来ると、竹棹が崖へ飛びついて、弓のやうにしなふ
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