天竜川
小島烏水

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)偃松《はひまつ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)長者|熊野《ゆや》が

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)面※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《ヴエール》を

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)こつ/\
−−

   一

 山又山の上を、何日も偃松《はひまつ》の中に寝て、カアキイ色の登山服には、松葉汁をなすり込んだ青い斑染《まだらぞめ》が、消えずに残つてゐる、山を下りてから、飯田の町まで寂しい宿駅を、車の上で揺られて来たが、どこを見ても山が重なり合ひ、顔を出し、肩を寄せて、通せん坊をしてゐる、これから南の国まで歩くとすれば、高い峠、低い峠が、鋭角線を何本も併行させたり、乱れ打つたりして、疲れた足の邪魔をする。山越しに木曾路へ出て、汽車に乗るとすれば、トンネル又トンネルがあつて、この温気に、土竜のやうに、暗の窖《あな》を這ひ、石炭の粉の
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