当がつかない、学校の教員も友人も、誰も知っていたものはなかった。
私は讃岐《さぬき》の産れで、国には崇徳上皇の御陵のある白峰という阜陵《ふりょう》がある、上田秋成の『雨月物語』や、露伴氏の作として、かなり評判のあった『二日物語』は、この白峰に取材がしてあるが、まさか、あの白峰じゃあなかろうと、真面目になって考えこんだものである。
志賀重昂氏の『日本風景論』を読み耽《ふけ》るようになった時分は、山の名ぐらいは、おかげで少し知って来たが、この本は、火山岩や火成岩の山岳ばかりを書いて、水成岩のそれを、全部省略してあるため、白峰や赤石山については、やはり何も知るところがなかった、もっとも同書の「花崗岩の山岳」という章に、「日本の山岳中、火山岩に次ぎ、高邁《こうまい》なるは花崗岩に属し(秩父岩より組成せる甲斐の白根[#「白根」に白丸傍点]山系を除く)」とあるのを読んで、甲斐に白根なんていう山があるかしらんと思った、この白根と白峰とは、同一山で赤石山系中の最高点を占めていることは、今日は多少山岳地理に注意するぐらいの人は、誰でも知っている、これは私と同時代同年輩の人たちが、古来著名の火山以外、
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