学者には――似而非《えせ》科学者はいざ知らず……恐らく、誰よりも温かい血が流れて居るべき筈である。実際誰よりも温い血が流れて居なくては真の科学者たることは出来ないのだ。
さて僕が、失恋の痛苦を味ってから選んだ研究題目は何であるかというに、君よ、笑うなかれ、心臓の生理学的研究だ。然し僕は、ブロークン・ハートに因《ちな》んで、この題目を選んだ訳では決して無い。それほどの茶気は僕には無いのだ。破れた心臓の修理を行うために、先ず心臓の研究に取りかゝったと言えば頗《すこぶ》る小説的であるが、僕はたゞ、学生時代から心臓の機能に非常に興味を持って居たから、好きな題目を選んだのに過ぎない。ところがこの偶然選んだ研究題目がはからずも役に立って、君の一生に最も目出度かるべき儀式に、恋愛曲線を贈り得るに至ったのである。
恋愛曲線! これから愈《いよい》よ恋愛曲線の説明に移ろうと思うが、その前に一言、心臓が普通どんな方法で研究されて居るかを述べて置かねばならない。心臓の機能を完全に知るためには、心臓を体外へ切り出して検査するのが最もよい方法である。心臓は、たといこれを体外へ切り出しても、適当な条件を与うれ
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