》が暗くなりかけた。で、僕は、最後の勇を揮《ふる》って、君に最後の一言を呈する。実はこの手紙を書く前に、教室主任と同僚にあてゝ手紙を書いたから、これが僕の最後の遺書となる訳だ。恋愛曲線は、明朝同僚の手で現像されて、君の許に送られるから、永久に保存してくれたまえ。
 君は最早《もはや》、僕に心臓を提供した女が何人であるかを推知して居るであろう。僕は今無限の喜びを感じて居る。自分で曲線を見ることこそ出来ぬが、真の恋愛曲線の出来つゝあることを僕はかたく信じて疑わない。僕の血が尽きたときは彼女の心臓は停止するのだ。これが恋愛の極致でなくて何であろう。
 ……おや、僕の血が少くなったと見え、彼女の心臓は今、まさに停止しようとして居る。君! 君との、愛なき金力結婚を厭い、彼女の真の恋人だった僕のところへ走って来た雪江さんの心臓は今、まさに停止しようとしている……[#地付き](〈新青年〉大正十五年一月号発表)



底本:「日本探偵小説全集1 黒岩涙香 小酒井不木 甲賀三郎 集」創元推理文庫、東京創元社
   1984(昭和59)年12月21日初版発行
   1996(平成8)年8月2日8版
底本の親本:「小酒井不木全集 第三卷」改造社
   1929(昭和4)年5月25日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「恋愛曲線を完成させたいのと」は「恋愛曲線を完成させたいとの」が正しいのではないかと思いましたが、底本の親本でも「のと」でしたので底本通りにしました。
入力:藤真新一
校正:多羅尾伴内
2004年2月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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