ので信之は気絶を装って居た妻に暴行を加えない先に眠ってしまいました。そこで私たちは、生れた胎児を彼のそばに寝かして置いたのです。
この狂言は、すべてが機会《チャンス》に任せてありまして、いざというときには、私が飛び出す手筈になって居ましたが、妻が巧みに働いてくれたので、幸いに、私は顔を出さずにすみました。私たちはただ、信之に大きな恐怖を与えて、改心させようとしたのですが、少し薬がききすぎて、彼は発狂してしまいました。友江さんの発狂は、その後駆黴療法を施した結果、完全になおりましたが、信之はとうとう恢復しませんでした。考えて見れば、彼は友江さんを一旦殺したのですから、それが当然の罰かも知れません。いや、私も妻も、若気の至りとはいえ、随分立ち入った冒険をしたものです。それにしても、皆さんは私の長話に定めし御退屈をなさったことでしょう……」
底本:「怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 恋愛曲線」ちくま文庫、筑摩書房
2002(平成14)年2月6日第1刷発行
初出:「講談倶楽部」
1926(大正15)年1月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:宮城高志
2010年4月19日作成
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