ージーは彼女を追いかけた。あわや彼女が彼の手で捕えられんとしたとき、グレージーの眼は急に光を失って、全身をぐたりとさせ、そばの椅子の上にたおれかかったのである。そうして彼女は虎口をのがれて逃げ出すことが出来た。
翌日グレージーの死体が発見された。警官は彼の手に女の片袖が握られていることと、床の上に盃が割れていることと、机の上に注ぎかけの盃のあることによって、大凡《おおよそ》その場の状景を察したが、死体解剖の結果、中毒の徴候は発見されないで、死因は心臓麻痺だとわかった。彼の弱い心臓は激情のために遂に破綻を来《きた》したのである。そうして警察では相手の女に対して、何の手続も取らなかった。
話し終って見れば彼の恋の結末はそんなに変でもなさそうである。むしろ私の頭が変なのかもしれない。
[#地付き](「大衆文芸」大正十五年七月号)
底本:「探偵クラブ 人工心臓」国書刊行会
1994(平成6)年9月20日初版第1刷発行
底本の親本:「大衆文芸」
1926(大正15)年7月号
初出:「大衆文芸」
1926(大正15)年7月号
入力:川山隆
校正:門田裕志
2007年8月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全4ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング