を経ました。すると後妻は右の眼がかすんでよく物が見えなくなったといい出しました。私は早速眼科医に見て貰うようにすすめましたが、後妻は大の△△教信者でして、御祈りして貰えばなおるといって、医者へは行かずに近所にあった△△教支部に通うたのでした。然し眼はだんだん見えなくなるばかりでしたから、私はしきりに医師をたずねるように主張しましたが、後妻も中々頑固なところがあって、かえって意地になって反対しました。
ある日、後妻が△△教支部から帰って、私に向って申しますには、神様にうかがって貰ったところ、自分の眼病は先妻の祟りで三毛に先妻の死霊がのりうつっているから、三毛のいる間は眼病は治らぬ、それゆえ、これからは三毛のいなくなる御祈りをしてやるとのことだったと告げるのでありました。私はそんなことが果して出来るかどうかを内心|大《おおい》に疑っておりました。
ところが、不思議にも、それから間もなく三毛がいなくなったのであります。十日経ち二十日経っても帰って来ませんでした。後妻はこれを知って大に喜び、いよいよ神様の不思議な力を信じ、自分の眼病も遠からずなおることと楽観しておりました。
ところが眼病はよくならないばかりか、いよいよ右の眼は見えなくなってしまいました。それでも後妻は△△教の力にたよって医師を訪ねようとはしませんでした。[#「しませんでした。」は底本では「しませんでした」]
ある夜私は可なりに遅く帰宅しました。いつも後妻は私より先に寝たことはありませんでしたがその夜は少し気分が悪いといって床の中にはいっておりました。そうして、いつも電灯をつけて寝るのでしたが、その夜は眼がちらつくといって電灯を消しておりました。私は何気なく、その寝室をあけますと、妻は私の声をきいて起き上りましたが、その時私は暗やみの中に猫の眼のようにぴかりと光るもののあるのを認めました。
「三毛がいる!」と、私は思わず叫びました。
「ひえーッ?」といって後妻はとび上って電灯をつけました。
ところが、その室には三毛の姿が見えませんでした。私たちは思わず顔を見合せましたが、お互いの顔には恐怖と安心との混合した表情が漲《みなぎ》りました。
「まあ、驚いた!」と後妻は申しました。
「いや、俺の見違いだったんだ! 堪忍してくれ」
こういって私は、寝間着に着換え、彼女を寝かせて電灯を消し、いざ寝ようとすると
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