んで、苦しんで、苦しみ抜いて死んで行くところを静にながめたいのだ。思えば、この時機をどんなに待ち焦《こが》れたことか。復讐というものは、辛抱の足らぬ人間には到底堪え難い重荷だが、僕は蛇のように執念深く辛抱したよ。そうして、とうとう、今のこの無限の喜びに接し得られたよ」
こういって男はきびしくにやり[#「にやり」に傍点]とした。それは悪魔の笑いであった。
「君は僕を毒殺しようとした」彼は幾分か声をふるわせて続けた。「ところが幸か不幸か僕はその毒をのまなかった。のむ前に発見したのだ。そうして僕はこのとおり助かった。けれども僕は、警察へは届けなかったよ。警察へ届けたのでは、復讐の快感を十分味わうことが出来ぬからねえ。つまり、僕は、僕自身の手で君に復讐しようと思ったのだ。
そこで先ず僕は、内密に君が僕に与えようとした毒を分析してもらったよ。その結果、それがストリヒニンであると知れた。ストリヒニン! 猛毒だ。君は僕を、蛙が水泳ぎをするように手足をつんのめらせて、苦しみ悶えさせて殺そうとしたのだ。
その恐ろしい君の心に対して、僕がいかなる計画を建てたと思う? 僕は先ず、ストリヒニンで殺されな
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