が》れた。帰途パーシユーズは、とある所に一人の少女の怪獣に襲はるるを救ひ、妻となして故郷に伴つた。
 国王はパーシユーズが決して無事で帰らぬものと思ひ、不在中母のダネイを挑んで止《や》まない。然《しか》しダネイがどうしても意に従はぬので王は大に怒つて之を殺さんとダネイの家に乱入する。丁度其処へ帰つたパーシユーズは、国王の前に立ち塞がり、「約束通りメヂューサの首をお目にかけよう」といひ様《さま》、不意に王の目に前に差し出すと、王の五体は立ち所に竦《すく》んでそのまゝ石と化して了つた。――ゴーゴンの伝説は之で終る。
 話は神話から実説に移る。毒蛇を説くものはエヂプトの最後の女王クレオパトラの臨終の模様を書き落してはなるまい。何となればクレオパトラは毒蛇に身を噛ませて自殺したと伝へられて居るからである。然しこれは果して事実であつたかどうかは千古の謎として残つて居る。
 アントニーとクレオパトラとの恋物語は今更茲に喋々《てふ/\》するまでもなからう。アントニーはオーガスタス帝の妹を妻としたが、クレオパトラの容色に魅せられて離縁すると、オーガスタス帝は怒つてクレオパトラに宣戦する。運|悪《つたな》くアントニーとクレオパトラの艦隊は敗北し共に遁《のが》れ帰つたが途中アントニーはクレオパトラが死んだといふ偽報《ぎほう》を聞いて自殺する。女王は時に三十八歳であつた。オーガスタスはなほも慊《あきた》らずクレオパトラをローマに連れ帰らうとしたが、女王はアントニーの墓を訪ね、二人の侍女と共に墓室に閉ぢ籠り、オーガスタスに書を送つてアントニーと同じ墓に葬つてくれと請願した。程経《ほどへ》て、兵士共が女王の室の戸を開くと、女王は黄金の床の上に眠るが如く死んで居て、二人の侍女も虫の息であつた。
 その死の原因はいまだに解けぬ。ある説によると墓室に閉ぢ籠つて居るうち、無花果《いちぢく》を盛つた籠《かご》を携へた男が通され、その籠の中に毒蛇が隠されてあつて、それに腕(胸といふ説もある)を噛ませて自殺したといひ、他の説によると、女王は予《かね》て花瓶の中に毒蛇を飼つて置き、金製の紡錘《つむ》でつついて怒らせ噛ましたといひ、第三の説によると空洞《うつろ》になつた鈿《かんざし》の中に毒を入れて常に髪に挿して居て、其の毒を仰いで死んだといふのである。毒蛇の説を反駁するものは、女王のやうに自ら美を誇つたもの
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