ではとうてい考えられない。そこで僕は湯滝に打たれようと考えたんだ。よく物を考えるときに、頭を拳でたたく人がある。あれはたしかによい方法だ。で、僕も、湯滝に脳天を打たせたのだよ。
 すると、兄さん、僕はふと湯滝が水でできていることを考え、水はこれを化学の分子式で書くと、H2[#「2」は下付き小文字]O だ。と思った時、はッとしたよ。そうして、この大きい字を頭の中で繰りかえしてみたところ、SもBもFもその他の大文字はみな化学の原素の記号ではないか。すなわちSは硫黄、Bは硼素《ほうそ》、Fは弗素《ふっそ》、Pは燐《りん》、Hは水素、Kは加里《カリー》、Aはアルゴン、Cは炭素、Nは窒素、Vはバナジウムだ。
 兄さん! もうこれでしめたものだ。ちょっと鉛筆を出してくれ。原素の記号のうち、花文字一個でできているのは、A、B、C、F、H、I、N、O、P、K、S、W、U、Vだ。
 そこで、次にどれがア行に属し、どれがカ行に属するかという問題が起こるが、これはもう訳のないことだ。きっと、原子量のいちばん少ないものから順に取ってあるに違いない。すると、その順序は、そうだね、ちょっと書いてみねば分からない」
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