年インフルエンザの流行《はや》った時、肺炎にかかって寂しく死んで行かれました。
で、最後に残る問題は、T先生が患者の腹から胎児を御取り出しになったことも、T先生の口の中が真紅《まっか》であったことも、果して私の錯覚であったかどうかということです。然《しか》したとい先生の御取り出しになったのが、胎児でなかったとしても、T先生が誤診なさったことは事実でありますしなお又、先生が、その疑問の組織のやり場に困って、最も安全な隠し場所として、御自分の胃袋を御選びになったことも、やはりたしかであると思って居るので御座います。
このことがありましてから、私は看護婦という職業に厭気《いやけ》がさして、現在の職業に移ったので御座います……」
[#地から1字上げ](『新青年』一九二五年十月)
底本:「現代怪奇小説集 中島河太郎・紀田順一郎編」立風書房
1988(昭和63)年7月10日第1刷発行
初出:「新青年」
1925(大正14)年10月号
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:藤真新一
校正:柳沢成雄
2002年10月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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