しい女を妻とするには、身命を投出す覚悟がなくてはならない。
京助が、果してそういう覚悟を持って居たかどうかはわからぬが、彼の体力と金力とは敏子を満足させることが出来たと見え、二人の仲は至ってよかった。然し敏子は、持ちまえの、コケッチッシュな性質をもって、良人《おっと》の友人を待遇したから、静也はいつの間にか、妙な心を起すに至ったのである。といって静也はその妙な心を、どう処置してよいかわからなかった。静也が若し臆病でなかったならば、或はあっさり敏子に打あけることが出来たかも知れない。然し、臆病な人間の常として、結果を予想して、色々と思い迷うものであるから、静也は打ちあけたあげくの怖ろしい結果を思うと、どうしても口の先へ出すことが出来なかった。だから、一人で胸を焦《こが》して居るより外はなかったのである。
とはいえ、段々恋が膨脹して来ると、遂には破裂しなければならぬことになる。静也は、どういう風に破裂させたものであろうかと頻《しき》りに考えたけれども、もとより名案は浮ばなかった。いっそ、思い切った手紙でも書いたならばと考えたけれど、字はまずいし、文章は下手であるし、その上手紙というもの
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