死の接吻
小酒井不木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)華氏《かし》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎晩|妾《めかけ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#6字下げ]一[#「一」は中見出し]
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[#6字下げ]一[#「一」は中見出し]
その年の暑さは格別であった。ある者は六十年来の暑さだといい、ある者は六百年来の暑さだと言った。でも、誰も六万年来の暑さだとは言わなかった。中央気象台の報告によると、ある日の最高温度は華氏《かし》百二十度であった。摂氏《せっし》でなくて幸福である。「中央気象台の天気予報は決して信用出来ぬが、寒暖計の度数ぐらいは信用してもよいだろう」と、信天翁《あほうどり》の生殖器を研究して居る貧乏な某大学教授が皮肉を言ったという事である。
東京市民は、耳かくしの女もくるめて、だいぶ閉口したらしかった。熱射病に罹《かか》って死ぬものが日に三十人を越した。一日に四十人ぐらい人口が減じたとて大日本帝国はびくともせぬが、人々は頗《すこぶ》る気味を悪がった。何しろ、雨が少しも降らなかったので
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