の家」がいわば私の処女作であった。
 いよいよ、同氏は小説家として立つことになった。その頃から、日本の探偵小説創作壇がだいぶ賑い出して来た。大阪で探偵趣味の会が出来、各娯楽雑誌にも探偵小説が歓迎されるようになった。
 ところが江戸川氏は、いつ逢っても、もう探偵小説は下火になりはしないか、行き詰りではないかということを口にしている。然し私はいつでもそれを打消して楽観的な見方をした。同氏のように、いわば精巧極まる作品を生産する人が、そのような憂《うれい》をいだくのは当然のことであり、私のような、無頓着な、荒削りの作品を生産するものが楽観的態度をとるのは当然のことである。然し、江戸川氏は、そういいながらも、先から先へと立派な作品を生産して行く。この点は、天才に共通なところであって、私は、氏が、行詰ったとか、書けないとか言っても、もはやちっとも心配しないのである。
 探偵小説ことに長篇探偵小説はこれからである。すでに「一寸法師」に於て本格小説の手腕を鮮かに見せた氏は、きっと、次から次へと、大作を発表して、私を喜ばせてくれることを信じてやまない。
[#地付き]『大衆文藝』昭和二年六月、『犯罪文学
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