まっても、あなたは決して、それで死ぬことはなかったのです。あなたの信仰なさる神様は、女には月のものがあるからという御つもりで、女を血友病には罹らせぬように工夫して下さったのです。ですから、たとい、今日、月のものがはじまりましても、やがて血は必ずとまります。あなたは、それで、死のうと思ったとて実は死ねないのです。
私の話しつつある間、老婦人の顔に、一種の獣性を帯《お》んだ表情がうかびましたが、だんだんそれが露骨になって行くのを私は見のがさなかったのです。そうして、私が語り終るなり、あッという間もなく、百五十歳の隠居さんはその皺くちゃの両腕をのばして、私の頸《くび》にいだきつきました。
あまりのことに私はわれを忘れて老婦人をはげしくつきのけました。
数秒の後、気がついて見ると、私の前に、老婦人いや、老婦人の死体が、干瓢《かんぴょう》のように見苦しく横たわって居《お》りました。
こう語って村尾氏は一息つき、ハンカチを取り出して頸筋を拭いてから、更に続けました。
「まったく、思いもよらぬ経験をしましたよ。何のために、老婦人が私にとびかかって来たのか、もとよりわかりませんが、あの恐ろし
前へ
次へ
全8ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング