室で、盗んで来たダイヤモンドを中央のテーブルの上に置き、それを取り囲んで、うっとりと見つめながら思うままに賞翫している場面から述べはじめるのであります。いつも三人は、緑色のシェードをもった卓上電燈の光りで、宝石の魅力ある光をながめるのですが、今は丁度午前二時で、三人は一時間ほど前に、男爵邸でかなりに心身を疲労したせいか、青色の光の前で、まるで催眠術にでもかけられているように、ぼんやりした表情をしつつ、長い間、無言の行をつづけました。三人とも煙草がきらいなので、はたから見ると、頗《すこぶ》る手持無沙汰に見えますけれど本人たちはそれ程に思わないのでしょう。テーブルの上にのせた手を組んで、前かがみに椅子に腰かけ、宝石の光に刺戟されて、色々の追想にふけるのでした。秋の夜の戸外は至って寂しく、お寺の多い町の静けさは、人々に一種の鬼気を感ぜしめないではおきません。
「美しい!」と、箕島が小声でいいました。
「すごい!」と、仙波がいいました。
「素敵だ!」と、京山がいいました。
 それから、再び沈黙が続きました。
 凡そ三十分程鑑賞の沈黙が続いたとき、聴覚の最もよく発達した箕島は戸外にある一種の異様
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