くんと保一くんとあなたとの三人並べて、だれが這般《しゃはん》の事情を利用するにもっとも適しているかと問うならば、だれしもあなたであると答えるに違いありません。保一くんは売薬業を営んでいるから多少医学的知識があるとしても、あなたほど容易には考えつかぬと思います。古来毒殺は女子の一手販売であると考えられ、男子で毒殺を行う者は医師か薬剤師であると言われておりますから、この際にも医師たるあなたを考えるのは別に奇怪ではないと思います。保一くんは売薬業をしておりますから、亜砒酸を手に入れやすいとしても、保一くんにしろ健吉くんにしろ、亜砒酸を投ずる際にすこぶる大きな冒険をしなければなりません。ところがあなたはやすやすとして亜砒酸を投ずることができ、しかも命令的に飲ませることさえできる位置にいます。こう考えてくると、三人のうちあなたをもっとも有力な嫌疑者と認めることは大なる誤りではないと思います」
 山本医師の顔は土のように青褪《あおざ》め、額から汗がばらばら流れた。
「だってわたしが亜砒酸を混ぜたという証拠がないじゃありませんか。健吉くんや保一くんと同じ位置にいるだけじゃありませんか」
「ところがそ
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