愚人の毒
小酒井不木
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)訊問室《じんもんしつ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)医学部教授|片田《かただ》博士
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)静めて[#「静めて」は底本では「靜めて」]
−−
1
ここは××署の訊問室《じんもんしつ》である。
生ぬるい風が思い出したように、街路の塵埃《ほこり》を運び込むほかには、開け放たれた窓の効能の少しもあらわれぬ真夏の午後である。いまにも、柱時計が止まりはしないかと思われる暑さをものともせず、三人の洋服を着た紳士が一つの机の片側に並んで、ときどき扇を使いながら、やがて入ってくるはずの人を待っていた。
向かっていちばん左に陣取った三人のうちいちばん若いのが津村《つむら》検事で、額が広く目が鋭く髭《ひげ》がない。中央の白髪交じりの頭が藤井《ふじい》署長、署長の右に禿《は》げた頭を金縁眼鏡と頬髯《ほおひげ》とで締め括《くく》ってゆったりと腰かけているのが、法医学者として名高いT大学医学部教授|片田《かただ》博士である。職
次へ
全33ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング