々取り扱って来たが、一度も怪我をしたことがなかったので、いかにも自信ありげに、その小包を手に取って、先ずその紐を解き包紙を除くと、中から菓子箱が出て来た。しかし重さが菓子に似合わないので、彼は極めて注意深く、徐々に蓋をあけかけた。
彼が僅かに一分か一分五厘あけた時、ドーンという音がして、エガンは壁の方に突き飛ばされ、判事は地面に腹這いになった。が、幸にしてエガンが右手をもぎ取られただけで、二人とも生命《いのち》には別条なかった。散弾は四方に飛んで、硝子やその他の家具を破壊した。このことあって以来、エガンは手に繃帯したまま出勤していたが、精神的に打撃を受けたためか、まるで別人のようになり、程なく勤務中に頓死した。
判事ロザルスキーに贈られた小包は、ウォーカーに贈られたものと全く同じであった。銅線も、瓦斯管も寸分ちがわないばかりか、紙の上に書かれたタイプライターの文字にも前に書いた特徴が立派にあらわれていたから、犯人は正しく同一人であると推定された。
しかしながら警察はそれ以上の手がかりを掴むことが出来なかった。ブレスナン探偵はそれ迄に、エリオット・フィッシャー会社製のタイプライター二百個を調べ上げたが、求むる機械に出逢わなかった。まだあとに調ぶべき百五十個が残されてあって、その中に犯人の使用したのがある筈である。けれどその取調べは、一朝一夕の仕事ではなかった。
一方、ウォーカーの家に出入りした男女の捜索も何等の光明を齎《もた》らさなかった。第二の犯罪によって捜索の範囲をイタリア人たちの方へ拡げねばならなくなったが、果してそれがイタリアの犯罪者の仕業であろうか。もしそうとすれば犯人はウォーカーとどういう関係があるであろうか。ウォーカーの家に出入したものの中に、イタリア人はなかった。ここに至って警察は二|進《ち》も三|進《ち》もできぬ破目に陥ってしまったのである。或は誰かの単なる悪戯かも知れないが、悪戯としても、ウォーカーや判事が特に選ばれたのはどういう訳であろうか。
この第二回の犯罪は紐育全市を騒がせた。新聞は一斉に警察の無能を攻撃した。ある新聞はエドガー・アラン・ポオの探偵小説「マリー・ロージェー事件」を引用して、ポオのような推理の力の発達した人間はもう出ないのかと慨歎した。しかし警察では、何といわれても、どうすることも出来なかった。実際の探偵は推理の力ばか
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