いう探偵が、警察医と二人の部下を従えてやって来た。
 死体の横わっている室は、眼もあてられぬ惨状を呈していた。窓硝子、姿見鏡、壁板、額、その他の器具は、粉微塵に砕かれて、その間に血に塗れた肉片が散乱していた。死体検査が済んで、死体を署へ運ばしめてから、部下のものは、捜査の手順として壊れた家具の組立てに取りかかったが、そればかりに一昼夜を要した程であった。
 一方、探偵ブレスナンは、問題の箱を検査した。その箱も大部分壊れてしまっていたが、その中には小さな電池、銅線、火薬、弾丸をつめた瓦斯《ガス》管があって、箱の蓋を開くなり、電流が通じて火花を発し、火薬に燃え移るという仕掛けであることがわかった。
 これらの物品の多くは、いずれもこれという特徴を持っていなかったが、ただ一つの捜索の手がかりとなるものは箱の包紙であった。というのはその上にウォーカーの宛名が書かれてあったからである。タイプライターで書かれた文字は一寸考えると、筆蹟とはちがって手がかりになりそうにもないが、その実、タイプライターにもそれぞれ個性があって、ある場合には筆蹟よりも確かな鑑別を行うことが出来るのである。殊にこの包紙に書かれた文字は、素人眼にもその特徴が、ありありとわかった。即ちrとaの字の形に、著しい変態が見られたのである。
 一通りの検査を終った探偵は、直ちにアンダーウッド・タイプライター商会の支配人アレンを訪ねて、携えて行った包紙の文字を鑑定してもらった。アレンは拡大鏡を取り出して精密に調べ終った後、探偵に向って言った。
「このrの字の垂直線は実に特殊なものでして恐らく六百万の中に一個しかありますまい。ですからこれと同じ特徴を持ったタイプライターを御捜しになれば、この宛名はそのタイプライターで書かれたものと断言して差支ありません。それからこのタイプライターの製造元ですが、数字の形が普通のとちがいますから、調べて見たらじきわかるだろうと思います。今、この場で申上げることは出来ませんが、明日の昼までに必ずたずねて置きましょう」
 果して、翌日、アレンは、その製造元が、エリオット・フィッシャー会社であることを探偵に告げたので、探偵はその足で同会社を訪ねると、同じような機械は三百五十台作られたきりであって、しかも紐育《ニューヨーク》市内だけの、主として諸官省に売られたことがわかった。そこで彼は一々そのタ
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