遺伝
小酒井不木
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)如何《どう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|寸《すん》
−−
「如何《どう》いう動機で私が刑法学者になったかと仰《おっ》しゃるんですか」と、四十を越したばかりのK博士は言った。「そうですねえ、一口にいうと私のこの傷ですよ」
K博士は、頸部の正面左側にある二|寸《すん》ばかりの瘢痕《はんこん》を指した。
「瘰癧《るいれき》でも手術なすった痕《あと》ですか」と私は何気なくたずねた。
「いいえ、御恥かしい話ですが……手っ取り早くいうならば、無理心中をしかけられた痕なんです」
あまりのことに私は暫《しば》らく、物も言わずに博士の顔を見つめた。
「なあに、びっくりなさる程のことではないですよ。若い時には種々《いろいろ》のことがあるものです。何しろ、好奇心の盛んな時代ですから、時として、その好奇心が禍《わざわい》を齎《もた》らします。私のこの傷も、つまりは私の好奇心の形見なんです。
私が初花《はつはな》という吉原の花魁《おいらん》と近づきになったのも、やはり好奇心のためでした。ところ
次へ
全8ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング