なた、義夫は横着じゃありませんか、遊びに行ったきり、まだ帰りませんよ」
「どうしたのだろう、学校に用事でも出来たのでないかしら」
 学校に用事のある訳はないと知りながらも、なるべく、妻を怒らすまいと、土間に立ったまま私はやさしく申しました。
「そんなことがあるものですか。わたしの顔を見ともないから、わざと遅く帰るつもりなんですよ」
 めったに遊びに行くことのない子でしたから、私の内心は言うに言われぬ不安を覚えましたが、妻の機嫌を損じては悪いと思いましたから、「お清にでも、その辺へ見にやってくれないか」と申しました。
「お清は加藤と使いに出て居《お》りませんよ」と、にべ[#「にべ」に傍点]もない返事です。加藤というのは看護婦の名です。
 その時、門の方に、大勢の人声がしましたので、私は怖しい予感のために、はっと立ちすくみながら、思わず妻と顔を見合せました。妻の眼は火のように輝きました。
「先生、坊ちゃんが……」
 戸外に走り出るなり、私の顔を見て、村の男が叫びました。泥にまみれた学校服の義夫が、戸板に載せられて、四五人の村人に運ばれて来たのです。
「……可哀相に、崖の下へ落ちていたんです
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