に忠実なろうとすることは、私の取らない所である。こういったからとて、私は決して奇蹟や偶然や、直観を許してもよいというのではなく、これらのものは出来得る限り探偵小説から駆逐してしまわなければならないのである。とにかく江戸川兄の作品のあるものも、細かに解剖すれば、小さな不自然を見つけることが出来るかも知れぬが、読んでいるときには、それを少しも気づかせぬほど、その筆力は冴えているのである。言いかえれば、江戸川兄の作品は、読者をして、息もつがせずに読み終らせ、そして読者に十分な知的満足を与えるのであって、要するに、面白いから面白いと言うより外はないのである。
 一般に、探偵小説そのものについて、一たい探偵小説の何処が面白いかときかれても、私は一寸返答に困る。やはり、面白いから面白いのだと答えるより外はないのである。探偵小説は、これを食物に譬《たと》えるならば、一種の刺戟剤であって、「わさび」や「しょうが」を何故好きかと問われても一寸返答に困ると同じである。「わさび」や「しょうが」には栄養価が少なく、栄養学上、人間の生存にとっては無くてもかまわぬものであるけれど、少くとも私自身ほしくてならぬよう
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