間となりました、彼は出獄と同時に多少の考案を持て来ることは疑ひないので、我等も夫れまでに出来得るだけの準備をして見る積りです、同志諸君、読者諸君に於ても本紙の体裁、材料、其他主義拡張に就ての良法名案あらば、ドシドシ御教示を願ひたい。
 廿四日の大雨の中を、蓑笠の百姓が数名本社に這入つて来るので、出て見ると後には巡査が付添ふて居ました、是は鉱毒被害民が惨状を訴へに来たのです、先日来二百余名の被害民が上京を企てたが、皆な警官に追散らされたさうです。
 鉱毒被害民は今や殆ど其生活の権利をすらも失つて居ます、そして之を訴ふるの手段も杜かれて仕舞つたのです、彼等は法律と警察とに保護せられずに却つて之が為めに苦しんで居るやうです、別項西川生の廃村の記を御覧下さい。
 併し警官とても何も彼等をイヂめる積りでは無論ない、雨中を蓑笠で行く百姓の姿も憐れなら、上官の命令で夫れを警護して行く巡査も気の毒である。
 先日提灯行列の惨事の翌夜、晩餐後の散歩に西川生石川生と三人で馬場先門へ行て見ると、十数人の巡査が同所を警護してヤカましく言て居る、往来の人々は大分彼等を罵つて居たやうだが、我等は同情に堪へなかつた、事ある毎に非番でも呼出されて終日終夜、悪く言はれながら命がけで働らく巡査ほど憐れ者は無いのです。
 無智無教育の労働者よりも、智識教育ある労働者は、其苦痛と不平も一層甚しかるべき筈です、我は将来巡査と小学教師中に、多数の社会主義者を出すことを確信します。
 平民新聞其他日本社会主義者の言論が、外国へ反響すると言て、御用紙が神経を痛めるのは滑稽です、先日も「国民新聞」が喧しく言て居ましたが、又々「日々新聞」が鹿爪らしいことを書て居ます。
 日本の政治家と資本家は、日本の正義人道とやらを外国に紹介する筈で、大枚の金を使つて末松君を洋行させ、金子君を洋行させ、外国記者を御馳走し、今度は各宗僧までも集めて「中外に宣揚した」ではないか、是迄にしたら外国でも嘸や彼等の「正義人道」に感服仕つて居るでしやうから、微々たる平民新聞の論説位ひを気にするにも及ばぬ筈です。

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(二十五号、二十六号、二十七号、二十八号、二十九号、明治三十七年五月一日、八日、十五日、二十二日、二十九日、署名一〜三は一記者、四〜五は編輯子)
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底本:「日本の名随筆 別巻95 
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