とした。彼はよく金を拾う場面を空想したものだった。金を拾うより他に方法はないと思った事は再々あった。金を拾えばどんなに嬉しかろうと思った事も度々あった。奇蹟的に金を拾って窮境を脱する事の出来る事を幾度か熱望した。が、空想は遂に空想に終って、そんを奇蹟はかつて実現した事がなかった。
然し、今日と云う今日こそ、正にその奇蹟が起ったのではあるまいか。こう思いながら、そうして一種異様な不安に襲われながら、友木は風呂敷包を開いた。中から紙包が現われた。そうして、
何たる奇蹟!
紙包の中味は正に紙幣束《さつたば》だった。
友木の手はブルブル顫えた。彼はあわてて紙幣束を懐中に捻《ね》じ込んだ。持ちつけない額なので、能《よ》く目算は出来なかったが少くとも五百円はあるらしかった。
友木は夢中で走り出した。兎に角、その場にいる事が恐ろしかったので。
数町離れた所へ来て、彼はホッと息をついた。
どうしよう。
届けようか。落主が知れれば一割位|貰《もら》えるかも知れない。が、落主が直《す》ぐ知れないと、そのままお預けだ。では、いっそ初めから、謝礼だけ引いて届けようか。いや、それは分った時に困る
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